みなさんは
というマンションをご存知でしょうか。
今回は日本でも有数の超高級マンションである、
このマンションのデザインを紐解いていきます。
パークコート青山 ザ タワーとは
パークコート青山 ザ タワーとは
三井不動産レジデンシャルが手掛けた超高級マンションです。
立地は東京都港区ですが、
南青山公園、青山霊園という豊かな緑が前面に広がる
良好な住環境のマンションです。
設計・施工は大林組ですが、
可哀想なことにネームバリュー的に
外国人デザイナーを前面に押し出しているため、
あまり知られていません。涙
売り文句になりそうな、下記デザイナーが
前面にプッシュされています。
インテリアデザイナーは
Emmanuel Barrois
エントランスホールのデザインを
手掛けています。
Bruno Moinard
モデルルームのデザインを担当しています。
外観デザインの曲線に呼応した、
曲線の詰め合わせみたいなデザインです。
2階のプライベートガーデンには
彫刻家・安田侃のアートもあります。
超高級だけあって、
国内外のタレントをふんだんに起用してます。
安田侃さんと言えば、同じく三井不動産の
東京ミッドタウンにもアートがありますね。
デザインコンセプト
まずはコンセプトを見ていきましょう。
コンセプトは“AOYAMA FLARE”です。
広告には、布をまとった女性が出てきたり、
柔らかな曲線の印象が至る所に出てきます。
販売の謳い文句には
世界は曲線でできている。
テクノロジー、デザイン、アートの曲線的進化を、
この住まいに集結する。
とあります。
ひたすら曲線推しです。
FLAREという言葉には、
ゆれる、広がる
などの意味があり、
そこから、曲線的な動きのあるコンセプトに行き着きました。
敷地も全面がゆるやかなカーブの道路に
面しているため、形状的にも必然性があります。
デザインについて
大まかなデザインについては公式が語っているので、
ここでは一級建築士のnabeが実務的な視点で
デザインについて解説していきます。
デザインの大きな特徴は3つあります。
- 曲面の建物形状
- 特殊な断面計画
- 特殊な平面計画
では詳しくみていきましょう。
曲面の建物形状
曲面の建物形状についてですが、
この建物はRC造であること、
基本的な平面形状(基準階)が同じ事
曲面であることから
PC(プレキャストコンクリート)を採用しているはずです。
そのため、綺麗で滑らかな曲面形状が実現できています。
また、後述しますが
このマンションでは外に出ることを前提としていません。
そのため、通常のマンションのバルコニーでは存在する
トップレール(手すりの一番上の部分。下記赤枠部分)を無くし、
極力ガラスの表情を見せることが可能です。
トップレールは一般的にアルミ型材や樹脂で製作されており、
曲面にするのはコスト的にやらないことが多いです。
ガラスも基本的には曲面だとコストが跳ね上がるので、
ガラスもトップレールも多角形で作るのが一般的です。
こちらで取り上げている隈研吾さんデザインの
超高級マンションですらコーナー部のガラスは多角形ガラスです。
また、曲面ガラスは綺麗に作らないと
歪みなどが目立ち、逆に見栄えが悪くなってしまうので、
注意が必要です。
せっかくコストをかけたのにもったいないですからね。
話をトップレールに戻します。
一般的なアルミの型材は
(そもそもアルミ型材って何?って方はこちら
要は、ところてんみたいにアルミの塊を押して、
特定の形状の材を作るイメージ)
2.0mm程度の厚みですが、
その型材を曲げようとすると強度的に
材料の厚みが必要になります。
材料の厚みが必要ということは材料が増える
=コスト増
につながります。
また、曲面をやるにも限界があります。
曲率が大きい部分に採用するのは、
物理的に曲げられない、という課題もあります。
外側が引張り、内側が圧縮になりますが、
ここの差が大きくなると破損してしまいます。
したがって、曲率が大きい場合、
通常は多角形とすることがほとんどでしょう。
結論として、
PC+3辺支持ガラス(トップレール無し)という手法によって
シンプルでスタイリッシュな曲面の外観を実現しています。
特殊な断面計画
次に特殊なバルコニー断面計画です。
画像で見るのが一番わかりやすいので、
こちらをご覧ください。
どういうことか分かりましたか?
分かりやすく説明します。
通常のマンションの断面はこんな感じです。
室内とほぼ同じレベルでバルコニーがつながっていて、
バルコニーには室外機や給湯器、
シンクや隔て板(隣の家のバルコニーを仕切るやつ)
などなど、
いわゆるデザイン的には見せたくない”雑物”が出てきます。
(もちろん機能的には必須ですし、
それをうまく処理するのが設計者の腕の見せ所でもありますが。)
また、この規模のマンションになると
避難ハッチが出てくるため、
道行く人が見上げると、バルコニーの下側(軒天)に
四角い穴が大量に見えてきます。
これらを踏まえた上で、
再度今回の建物の断面計画を見てみましょう。
まず、バルコニーの高さを下げています。
前述のとおり、このマンションは
バルコニーには出ないことを前提としています。
これによって、
・室外機などの設備が視界から消える
・手すりも下がるため、抜け感のある眺望になる
・基本バルコニーに出ないのでトップレールの無い
シンプルなガラス手すりが可能
より眺望的に有利
・当然洗濯物も干せないので、洗濯金物も無し
室内乾燥機完備
・洗濯物を始めとする私物がバルコニーに出てこないので、
外観の美観を損ねない
・バルコニーに出ないので、隣り合う住戸との間に出てくる
隔て板が不要
という、ミニマリストの思想のような
洗練された建築物になっています。
特殊な平面計画
次に特殊な平面計画です。
上記の断面計画に加え、ウルトラCなのが平面計画です。
バルコニーには基本出ないことを前提としている、
と言いましたが、唯一出る時があります。
それは避難時です。
避難時にはガラスを開けて、
高さの下がっているバルコニーに下りるのです。
これ結構怖いと思いますが、
一応ミニはしごがついているので、
それでバルコニーには下りられます。
赤丸部分が室内からバルコニーへの出口
”Emergency Exit Path”
と書いてあるとおり、非常用通路という扱いのバルコニーを通り
青丸部分から建物内部に入り避難階段へ、という考え方です。
この間取りは下の写真でいう左側のボリュームですね。
2つの建物ボリュームの谷間に向かって避難する計画です。
また、この平面計画によって何が起こるかというと、
こちらの写真のように、
・ガラス手すり
・ガラスの外壁
・樋や吸排気口
といった少ない要素で構成された
洗練されたデザインが実現できます。
通常必要な隔て板が出てきません。
(一部下層階では給湯器が見えてますが。)
ちなみにこの赤丸で囲った部分が
部屋からバルコニーに出るミニはしごです。
また、先ほどのこちらの写真を見ると、
異なる住戸同士の見合いが気になると思います。
しかし、平面的には棚や水回りでふさがれているので、
住戸の見合いは心配ありません。
前述のとおりバルコニーには基本出ませんので。
平面図で見るとこんなイメージです。
(なんとなく合成した概念図です。
位置関係は完全に正確ではありません。)
赤が壁、青がガラスです。
若干は見えますが、そこはカーテンなどで処理でしょう。
その他
その他この建物で特筆すべき点をいくつかあげます。
擁壁
複雑な形状が立体的につながって、
非常に面白いです。
石厚がすごいことになっている
&
複雑な加工
&
表面仕上げ(これはビシャン?ノミ切り仕上げ?)
の3本立てで相当コストがかかっていますね。
ただ、建物自体は洗練されていますが、
シンプルなのでそこまでコストはかかっていないのでは?
と推測しています。
その分、
外構、インテリア、共用部、専有部仕様に
しっかりとコストをかけているのかな、と思います。
インフィニティプール
はい、出ました。
ザ・富裕層向けの共用部って感じですね。
当然貸し切り可能。
奥にはジャグジーも。
凄い世界ですね。
ちなみにこういった温浴施設のあるマンションを買う場合、
開口部の性能についても確認することをお勧めします。
プールなので当然湿気がありますから、
通常のペアガラスだと結露で窓が曇ってしまい、
せっかくの眺望が台無し。。。
ということになりかねません。
こういった高級仕様なのに、
そういうところまで徹底できていないと
むしろ残念な結果になります。
また、結露はカビの発生につながります。
そうするとさらに悲惨なことに。
解決方法としては、
発熱ガラスを入れるなどの対応があります。
発熱ガラスは高い割に、
その成果はおそらく顧客には伝わりません。
が、そういった細かい配慮の積み重ねが、
高品質なものにつながってゆくと思います。
当然、このマンションでも採用されています。
いかがでしょうか。
超高級タワーマンションを一級建築士の視点で紐解いてみました。
身近な建物のマンションですが、踏み込んでみると色々と検討すべきことが多いです。
そういったことを踏まえつつコンセプトを体現したデザインを成立させ、
それによって集客力や資産性を上げることがとても重要となります。
この内容を見た上で色々なマンションを見ると、また違った発見や面白さがあると思いますよ!
ぜひ新たな視点で見てみて下さいね!