みなさんは
というマンションをご存知でしょうか。
そう、言わずと知れた、ヒルズ族という言葉を生み出した
六本木ヒルズとの一体開発で生まれた超高級マンションです。

今回はこのマンションのデザインを紐解いていきます。
(断りの無い限り、本文中の六本木ヒルズレジデンスは
六本木ヒルズレジデンスのB・C棟を指します。
上記写真の2本のタワーマンションです。)

六本木ヒルズレジデンスとは
六本木ヒルズレジデンスとは
森ビルが手掛けた、六本木ヒルズに隣接する超高級マンションです。
厳密には再開発なので、
六本木六丁目地区市街地再開発組合がデベロッパーですが。
森ビルを筆頭に、地権者やその他関連企業が
集まって組合を作り実現させたものです。
そもそも六本木ヒルズとは何か?
という方はこちら
(六本木ヒルズというと、大体の人はあの一番デカいタワーを思い浮かべるかと思いますが、あの建物自体は六本木ヒルズ 森タワーと言います。)
立地は東京都港区六本木六丁目
この地名から、現在の人工地盤テラスである
66プラザは生まれています。
蜘蛛のアート(ママン)が有名ですね。

六本木ヒルズとはけやき坂を挟んで反対側にありますが、
2階レベルでペデストリアンデッキで直接接続されています。
こういった大規模開発に隣接し、
直接アクセスできるマンションは資産価値向上に寄与しており、
隈研吾さんデザインのパークコート檜町ザタワーもミッドタウン直結です。
六本木ヒルズ自体はかなり大きな開発で建物も複数の施設から構成されます。
森タワー(オフィス)やテレビ朝日(TV局)
グランドハイアット(ホテル)などあり、
設計・施工も多くの大手企業が参画しています。
森タワーはアメリカの超有名設計事務所のKPF(コーン・ペダーセン・フォックス)のデザインだったり、
低層商業はJon Jerde(ジョン・ジャーディー)のデザインだったり、
テレビ朝日は槇文彦さんのデザインだったり、
超大物を起用しています。
森ビルは本当にデザインに力を入れていますね。
現在進んでいる虎ノ門・愛宕の開発では
インゲンホーフェン・アーキテクツやOMAなど
虎ノ門麻布台の開発では
シーザー・ペリ、トーマス・ヘザウィック、藤本壮介など
世界中の名だたる建築家が参画しています。
さて、そんな中で六本木ヒルズレジデンスのデザイナーは、
Conran & Partners(コンラン アンド パートナーズ)
が手掛けています。
コンラン・ショップが有名で、
インテリアデザインのイメージの方が強いのではないでしょうか?
設計は日建ハウジングシステム&森ビル一級建築士事務所
施工はAB棟が戸田建設とフジタのJVで
CD棟が清水建設と西武建設のJVです
これまた、パークコート青山 ザ タワー同様に
可哀想なことにネームバリュー的に
外国人デザイナーを前面に押し出しているため、
設計者はあまり知られていません。涙
Conran & Partnersは六本木ヒルズレジデンス以外にも
二子玉川RISEなども手掛けています。
デザインコンセプト
まずはコンセプトを見ていきましょう。
コンセプトは“Quality of Life”です。
うーん
正直、なんとも言えないコンセプトです。
どんなデザインにでも昇華できそうな、
広義的に捉えられる曖昧なコンセプト。
公式HPではこのような記載があります。
ライムストーンとテラコッタといった本物の天然石を使用して、自然な風合いを生かし、シンプルで飽きのこないデザインは、歴史あるヨーロッパの建築デザインです。
東京に存在しなかったような「クリエイティブ」な集合住宅は、新しいライフスタイルのヒントになるような空間で、東京に「クオリティ・オブ・ライフ」の新しい可能性を伝えます。
公式HPより
どうでしょう。
言ってることは納得がいきますが、
建物の素材以外の形状や色彩については
コンセプトがどういったデザインに影響を与えているかは
ここからは読み取れません。
では、詳しく建物のデザインにフォーカスし
読み取っていきましょう。
デザインについて
大まかなデザインについては公式が語っているので、
ここでは一級建築士のnabeが実務的な視点で
デザインについて解説していきます。
デザインの大きな特徴は4つあります。
- 素材
- 色彩
- 植栽
- 断面形状
ではそれぞれ見ていきましょう。
素材
建物の素材ですが、
先ほどのコンセプトのところにありましたが、
この建物は主に石、テラコッタタイル、タイルで構成されています。
これはすごいことです。
2020年4月現在、
タワーマンションを建てる場合の外壁は
塗装が一般的です。
理由は、
・落下した場合のリスク回避
・コスト
の2点が主な理由です。
低層部の1~2階のエントランス周りや
商業施設がある場合は石張りなども一般的ですが、
高層部(だいたい30m以上)になると
石やタイル張りを避ける傾向にあります。
六本木ヒルズレジデンスができたのは2003年
まだまだタワーマンションが今ほど多くはなかった時期なので、
こういったノウハウや業界の潮流というものはあまり無かったと推測されます。
もちろんだからと言って 六本木ヒルズレジデンスの
石やタイルが落ちる心配があるというわけではありません。
できるだけリスクを0にしたい、という事業者の心情ということですね。
しかし、森ビルはやはり他のデベロッパーと少し毛色が違うので、
今後も使っていく可能性は十分に考えられます。
さて、ここではテラコッタタイルに石張り、
しかも屋外でライムストーンを使うという、
通常ではなかなか考えられない素材の選定をしています。
白っぽい部分はライムストーン
赤い部分がテラコッタタイル
青い部分がモザイクタイル
です。


テラコッタタイルのコーナー納まり。
通常だと躯体に塗装か役物が多いですがアングルで納めています。
こういった納まりは大規模マンションでは珍しいですね。

部分的に青い色が使われていますが、
この青色の正体はモザイクタイルです。
超高層マンションでこのくらいのビビットな青を
使う勇気のあるデザイナー&デベロッパーは中々いないのでは?


コーナーの白い部分はライムストーンです。
これだけの量を使うタワーマンションはこれが最初で最後でしょう。
森ビルの気概を感じますね。


ちなみにこのライムストーンは六本木ヒルズの低層部の外壁や
グランドハイアットの壁面にも使われており、
全体的に素材をちりばめることで、
一体開発としての統一感を作っています。

ただ、一般的にライムストーンは吸水率が高く、
屋外で使用することが少ないため、外壁に使われている珍しい事例の一つだと思います。
ちなみに石種はアンバーライムストーンという石種です。
色彩
色がすごいですよね。
赤に近いオレンジ
と
青
これは海外のデザイナーならではかと思いますが、
GOサインを出した森ビルもすごいですね。
都内のタワーマンションではまず見られない色使いです。
青だけなら湾岸部のマンションでも見つけられますが、
そこにオレンジが入るとかなり特徴的です。
しかし、なぜこの色使いが中々無いかというと、
デザインーやデベロッパー以前の話があります。
それは景観上の理由です。
六本木ヒルズレジデンスができたのは2003年(平成15年)
現在では港区には景観条例があります。
建築計画をする際に一定の条件に当てはまる場合には協議を行い、
届出を出し、適合していれば計画を進めることができます。
港区景観条例が施行されたのは平成21年6月ですので、
六本木ヒルズレジデンスができた数年後です。
景観条例では建物の”形状”や”色彩”など
色々な観点からの指摘に対して答える必要があります。
景観条例では立地や規模によって、
下記の表のように、
色相や彩度、使用可能な面積が細かく指定されています。


この表から見ると六本木ヒルズレジデンスは完全にアウトです。
下表の右端の区分のオレンジ枠外の色使いだからです。
しかし、竣工当時この条例は無かったためセーフです。笑
ここで言いたいのは、
現行の景観条例に合致しないからと言って景観に配慮していない、
景観上良くないと言うつもりはありません。
独自の色使いはデザイナーのセンスやデベロッパーの想いだけでなく、
こういった法律も関係しているということが分かっていただければ幸いです。
ちなみに景観法ですら公布されたのは2004年ですので、
これまた六本木ヒルズレジデンスができた後です。
植栽
森ビルの思想の1つに”バーティカル・ガーデンシティ”という思想があります。
半世紀にわたる試行錯誤を経て、私たちがたどり着いた理想の都市モデルは、緑に覆われた超高層都市。
「Vertical Garden City - 立体緑園都市」です。
これは、無秩序に広がった巨大都市の中心部をスーパーブロックで再生していく都市モデルです。都心の空と地下を有効に活用し、そこに職、住、遊、商、学、憩、文化、交流などの多彩な都市機能を立体的重層的に組み込むことによって、徒歩で暮らせるコンパクトシティを実現しようというものです。
公式HPより一部抜粋

こういった、立体的にも緑を開していくという
森ビルの思想がこの建物にも反映されており、
バルコニーにプランターが常設されています。

バルコニーに植栽がある建物は
外観的にも住まい手としても良いですよね。
海外にはこういうすごいのもあります。
ミラノのBosco Verticale(垂直の森)

しかし、バルコニーに植栽のある建物は、
いい感じに見えると思いますが
実際に実現しようとするとかなりハードルが高いです。
植栽というのは日々のメンテナンスが非常に重要であり、
植えたらはい、おしまいという単純なものではありません。
日々のメンテナンスが重要
↓
維持管理費がかかる
↓
管理費が高い
ということにつながります。
植栽大好きな人なら良いですが、
一般の人なら植栽は好きでも、
それが管理費に直結するとなると
二の足を踏む人も多いのではないでしょうか。
ではなぜ、この建物では実現できているか。
六本木ヒルズレジデンスは
実は基本的に賃貸マンションなのです。
マンション好きな人には常識かもしれませんが、
分譲ではないのです。
(基本的にと書いたのは、地権者の方が売り出していたりするためです。)
さて、分譲と賃貸だと何が大きく違うかというと
管理費の考え方が違います。
分譲ですと区分所有になり、
管理組合に管理費を払う必要があります。
しかし賃貸では必ずしもその必要はありません。
あくまで貸主が求める管理費・共益費を払えばよいので、
貸主が0と言っていれば0でも良いのです。
ではここで六本木ヒルズレジデンスの空室募集を見てみます。

なんと管理費0です!
つまり維持管理費は貸主の森ビルによって担保されているので、
植栽のメンテナンス費用は住人は考える必要が無く、
こうして植栽を設置することができています。
(賃料入っていると言えばそれはそうなんですが。)
もちろん自分でバルコニーに植栽を置く、というのは
どこのマンションでも一般的でよく見られる光景ですが、
マンション全体でやっているところはほぼ無いということが、
改めて色々なマンションを見てみると分かると思います。
ぜひこの視点で見てみて下さい。
ちなみに同じく森ビルの元麻布ヒルズでは似たようなことをやってますね。

断面形状
はい、またしても断面形状です。
パークコート青山ザタワーの時もありましたね。
マンション購入をしようと調べたことがある人は
一度はこの比較断面を見たことがあるのではないでしょうか?
順梁インナーフレーム、逆梁アウトフレームというやつです。

ちなみに、室内側に柱や梁があるとインナーフレーム、
バルコニー側に出ているとアウトフレーム、
と説明しているものをよく多く見ますが、
構造形式としてはどちらも一緒です。
構造形式としては、上の図のように
梁の外にバルコニーがある順梁インナーフレーム
梁の内にバルコニーがある逆梁アウトフレーム
の2種が一般的です。
さて、今回の建物はどちらにも属しません。
順梁アウトフレームというあまり見ない方式です。
先ほどの図と比較するとこういう感じです。

ちなみにこれは森ビルの建物でよく見られ、
元麻布ヒルズや虎ノ門ヒルズレジデンスでも採用されています。


この構造形式の何が良いかというと、
室内と室外の天井、床がフラットでつながることができます。
虎ノ門ヒルズレジデンスはオフィス、ホテルも含む複合タワーなので
バルコニーに方立などが出ていますが、
それが無ければ内外が連続した広々とした雰囲気を作ることができます。
また、アウトフレームは建物外周を固めるので、
構造的に有利な特徴もある一方で、
眺望を重視したい高層マンションではあまり
採用したくない、という実情もあります。
もちろんバルコニーの下側に梁が出るので、
バルコニーの高さが下がるなどのデメリットもあります。
改めて今回の建物を見るとこんな感じです。

天井、床がフラットですね。
バルコニーの先端には手すりと植栽があります。
(この背面の仕上げはイマイチな気がしますが。)

上で出たこの画像も改めて見ると柱が外側にありますが、
バルコニーの上はガラス手すりになっており、
その代わり下側に梁が出ていて
逆梁アウトフレームになっていることが分かると思います。
いかがでしょうか。
超高級タワーマンションを一級建築士の視点で紐解いてみました。
身近な建物のマンションですが、踏み込んでみると色々な要素で構成されているということが分かると思います。
そういったことを踏まえつつコンセプトを体現したデザインを成立させ、
それによって集客力や資産性を上げることがとても重要となります。
この内容を見た上で色々なマンションを見ると、また違った発見や面白さがあると思いますよ!
ぜひ新たな視点で見てみて下さいね!
