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建築家がメタバース空間を作るのは簡単ではないという事実

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nabeです。
2022年、各企業がこぞってメタバースを謳い、すでに社会の一大トレンドになって久しいです。

そんなメタバース空間は建築の設計やデザイン、CGパースを難なくこなす建築家の目からすると参入の余地があるように見えると思います。

本記事ではそんな簡単じゃないよ、ということをつらつらと書いていき、最後に、ではどうしたら参入できるのかのヒントを書いていきます。

建築家の知らない実装という壁

なぜそう簡単ではないのか。
単刀直入にいうと、設計できるorデザインできるということと実装できるということは同義ではないからです。

実装という言葉は純粋に建築畑の人だとあまりなじみが無いかもしれませんが、エンジニアやプログラマの方にはとてもなじみ深い言葉です。あえて建築畑の人に向けて建築的な言葉でいうと”施工可能性”と言ったところでしょうか。

実装とは簡単に言うと実際に運用できるようにすることを指し、ここがメタバース空間を作っていく際に(というよりもデジタルデータや情報処理を扱う際、全般的に)重要になってきます。

建築家が思うメタバース空間はすなわち自分たちが日ごろ作っている、レンダリングしたパースや3Dデータそのものかと思います。設計・デザインからモデル化まで一貫して行えるというのはとても素晴らしい専門技能であり、メタバース空間を構築していくのに必要な技術であることは間違いありません。

しかしこれだけではただの3Dモデルでしかなく、今主流になっているメタバース空間には程遠いというのをまず認識して下さい。

実装が難しい訳

メタバース空間と相性の良い業界をイメージして下さい。

イメージできましたか?

おそらく多くの人がゲームや映像業界を思い浮かべるかと思います。なぜこれらの業界は相性が良く、CGや3Dパースなど同じようにデジタルでの空間構築もバリバリやっている建築家にとっては簡単ではないのか。

その鍵の1つは”リアルタイム”にあります。

オンラインゲームをやったことがある人は分かるかもしれませんが、オンラインゲームで重要なことはリアルタイム性です。同時進行で遠隔の人と遅延無くプレイできるのが重要な点になります。

カクつきやタイムラグがあるとどうしても操作やコミュニケーションに影響し、ストレスが溜まります。
コロナによって浸透したオンライン会議ですが、たった1秒のラグでも相手と話し始めが被ってしまって微妙な感じになったりした経験がある人も多いのではないでしょうか?

一方、建築のCGは静止画で提案書に組みこむという見せ方が多く、リアルタイム性よりもデザインや見栄えの品質を上げることが重要視されます。したがって3Dモデルを作る時にユーザーやクライアントが見る際のカクツキや遅延などを考える必要はあまりありません。(作業性という意味ではデータが重いとカクつくので考える必要がありますが)

このように、建築家が提案する際のCGや3Dモデルの多くは静止画なり動画なりを予めレンダリング(プリレンダー)して見せるという方法を採用しており、一見すると似ているようですがリアルタイムで3Dモデルを見るのとは大きく概念が異なります。

リアルタイム性に重要なこと

ここまでは単に設計やデザインができて3Dモデルを作ってもそれだけじゃうまくいかないよ、ということを書いてきました。
次は具体的にリアルタイム性を実現するために重要なことを説明します。

まず1つ目は遅延の無さです。
先ほども書いたように遅延、カクつきはストレスやコミュニケーションを阻害する要因です。

そのために考えるべきポイントは4つあります。
①機器の処理能力の問題
②回線の問題
③3Dモデルの問題
④システムの問題

①②は建築家の力ではほぼどうにもなりませんが③は腕の見せ所です。具体的にはデータが重くなりすぎないようにするために、ポリゴン数をコントロールしたり、ノーマルマップなどを使って凹凸を表現するなど、建築CGだとあまり気に留められていなかったことを気にしながら作っていく技術が必要になります。
ディテールを詰めていけばいくほどデータが重くなり負荷がかかるので、匙加減を考えながらメリハリをつけるという作業が必要になります。

④ここは建築家というよりもエンジニアやプログラマなどの力が大きいですが、ここの技術を知っているか知らないかでできることの幅が大きく変わっていきます。
実際の建築でもそうですが、施工のバリエーションや納まりの別な方法を知っていれば実現できることがあるように、メタバース空間においても同様なことが言えます。
プリレンダーのように3Dデータがいくら重くなってもipgで書き出せば重くしてもあまり気にすることなく、Photoshopなどでの調整もできる建築の3DCGと異なり、オンラインでストレスが無いようにデータ容量や描画品質について考えるということはとても大変です。
それを分かった上でメタバース空間の設計やデザインをできる人は言うなれば”施工や現場が分かる設計者”というところでしょうか。

2つ目はUXデザインです。
UXやUIと聞くと建築関係者はアプリやウェブ、SNSなどのことを想像するかもしれませんがメタバース空間においてもかなり(というか一番)重要なポイントになります。
そもそも実際に現実空間に建つ建築物もUXデザインを意識するべきというのが私の考えです。

「来る人、使う人にどういう体験をさせたいか」

建築の設計やデザインは突き詰めるとこれくらいシンプルな考えになると思います。
例えば隠れ場的な雰囲気のバーにしたい時に道路に面してガラス張りで中を丸見えにしたりはあまりしないですよね?(もしかしたらあえてそうすることで隠れ家的になるという手法もあるかもしれませんが…)
やるならば、路地のような空間を通って、地下に降りて重い扉をくぐって照度の低い店内に入って…という空間構成を考えたりするはずです。

ツールや手法が変わってもこのシンプルな考えは踏襲され、実際の空間からメタバース空間へ移行したとしても変わりません。

ユーザーにどういう体験をさせたいかを考える時に大事なことは手法の引き出しを持つことです。
建築家は実空間ではそのプロフェッショナルです。しかし、メタバース空間でできることは全然異なりますので、そこを知ることがメタバース空間の設計やデザインをする上で重要になります。

メタバース空間に訪れた人がどういう体験を求めていて、自身でどういう目的のために、どういう行動選択を行って欲しいか。こういったUXを設計した上でデジタル上での空間設計に落とし込んでいくことが必要です。

メタバース空間では、実際の空間ではできないワープができたり、人が近づくと急にオブジェクトが出てきたりするギミックを入れ込めるため、実空間と同じ動線計画をすれば良いというものではありません。
したがって”どういうUXが必要か”、”そのために必要な空間と演出(ギミック)”が効果的か知ることが大事です。

これは予め書き出したウォークスルーの動画をクライアントに見せる一方的なやりかたとは全く異なる考えで、建築家が今までカバーしていない領域になります。

まとめ

以上が建築家がメタバース空間の設計やデザインに参入するのが簡単では無いという理由になります。

しかし、逆にいうと映像やゲームの世界で生きている人は現実に即した設計やデザインは苦手だったりします。それぞれの分野で得意不得意があるのは当然ですので悲観する必要はありません。

ただし、メタバースという世界が今後広がっていく際に、何も知らずに「建築家はメタバース空間に参入できる」と考えていると後々大きな後れを取ることになるでしょう。
そうならないためにも、現時点での弱みと強みをしっかりと認識し今後取るべきアプローチを考えれば良いと思います。

建築家の活躍できる新たなフィールドだと考えているので、興味がある方は少し深堀してみてはいかがでしょうか?

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