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【高級マンション】中村拓志・NAPが外観デザインを担当したブランズ横浜を紐解く【東急不動産】

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みなさんは

ブランズ横浜

というマンションをご存知でしょうか。

ブランズは東急不動産のマンションシリーズです。
デベロッパーは東急不動産と東神開発株式会社ですが、本プロジェクトの主導は東急不動産なのでマンション名もブランズを採用しているのでしょう。
東急不動産案件なので設計はもちろん東急設計コンサルタント、そして西松建設の設計JVです。
施工は設計からの流れでそのまま引き継ぎ西松建設が行っています。

また、外観デザイン監修として中村拓志率いるNAPが参画しています。
そんなブランズ横浜のデザインを紐解いていきましょう。

ブランズ横浜とは

ブランズ横浜とは
東急不動産が手掛けた、横浜駅近くに位置する高級マンションです。
横浜駅西口徒歩数分の好立地で2018年竣工、前面は川が流れているので特に南側の住戸はすぐ目の前に建物が建つリスクも無いので市街地の中でも良い条件です。

前面には道路と川があり開放的 低層の回廊が目立つ

そんなブランズ横浜の目玉の1つはその立地における希少な規模です。

ブランズ横浜は、横浜駅西口徒歩10分未満の場所において過去47年間で初となる200戸以上の大規模マンションです。この場所は横浜駅周辺の住宅等の立地が禁止されている<業務・商業専用地区>のすぐ側に位置しており、「横浜髙島屋」や「横浜ベイシェラトン ホテル&タワーズ」などが並ぶ都心立地ながら、オーナーガーデンやオーナーズテラスなど都市機能と緑の調和を図る施設を設けました。

引用元

また、ただのマンションだけではなく商業施設やホールも入った複合用途で構成された建物になります。

階数は地上17階、地下1階
高さ59.868m
延べ面積32,425㎡

マンションは法規的な制限がかかる特定の高さがいくつかあり、それらを考慮すると例えば14階や18階建てなどにすることがコスパが良くなりやすいです。
一般的には60mのラインにかからないようにする場合は18階の建物が多いのですが、この建物は17階です。
理由としては低層部にホールが入っているため階高が高くなってしまい、トータルで60m未満の高さに抑えるためには17階にせざるを得なかったということでしょう。
デベロッパーとしては売りものである住戸を増やしたいところですが、やむなしなのでしょう。

販売価格ですが、現状売りに出ているものは83㎡で1億2千万円程度
坪単価は470万円です。

引用元
引用元


都内ではそこまで珍しくもない数字ですが、神奈川エリアであればやはり高い方でしょう。
三井不動産のザタワー北中などみなとみらい近辺にも坪単価が高めなマンションは多いですね。
神奈川県の坪単価ランキングはこちら

特徴的なオーナーズガーデン

デザイン上最も特徴があるのは2~4階のオーナーズガーデン及びそこにある回廊でしょう。


この物件では

豊かな緑と都市の融合

を目指しています。

「ブランズ横浜」は、建物を敷地の東側に寄せて配置。隣地の建物との間に距離をとり、その空間にガーデンを設けています。豊かな緑の景観を創造することによって、都市の中心にありながら潤いのある環境づくりを目指しています。
2階から3階にかけて渡された回廊と4階部分のマンション居住者専用の「オーナーズガーデン」により、建物3層分の緑の空間を創出し、JR 横浜駅西口徒歩6分の場所にありながら、緑との共生を図っています。また屋上には「オーナーズテラス」を設けることで、横浜ならではの夜景を楽しむことができます。

引用元
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ステップガーデン上に緑が連続しており、そこにうねうねとした回廊が張り巡らされています。建築デザインを担当したNAP、そして回廊と言えば、かの有名な尾道のリボンチャペルを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか?
とても美しい建築ですね。見に行ったことがないので行ってみたい…

端正なプロポーションのリボンチャペルとは異なり、こちらは中々に激しめの形状をしています。

ガーデンからは植物の下垂(下に垂れること)もあり、建物が植物を纏っているような感じになりますね。

デザインコンセプト

まずはコンセプトを見ていきましょう。

といつもならなるところですが、今回明確なコンセプトは見つけられませんでした。
もちろん高級物件ではあるものの、物件規模的にそこまで明確にコンセプトを付けるまでも無かったのかな?と思います。
あえて言うなら先述の

豊かな緑と都市の融合

ですかね。
もし分かる方がいたら教えてください。
NAPのHPにいっても本プロジェクトは載っていないので…

次は詳しく建物のデザインにフォーカスし読み取っていきましょう。

デザインについて

デザインの大きな特徴は3つあります。

  • 低層部デザイン
  • エントランスの石のデザイン
  • その他

ではそれぞれ見ていきましょう。

低層部デザイン

低層部にはとても主張の強い回廊があります。
この回廊によってガーデンを立体的に散策し、色々なところから眺めることができます。
立体的な回遊性があると歩くのも楽しくなりますね。

木々を下から見上げるのと、枝葉の高さに目線が合って葉っぱが見えるのでは見えるものや感じるものが変わってきます。
建築やインテリア、ランドスケープのデザインをする時に”どこから、どのように、どう見えるか”というのはとても基本的でありながら超重要なポイントなので、いいデザインをするには必ず検討する必要があります。

低層部の茶色の壁面は本物の木ではなさそうです。本物の木を使うのはメンテナンスが大変なので大抵は
・木に見える塗装(凹凸のリブを付けたりすることも)
・木目調のを転写した金属
・木目調のシート貼り
・木目調のタイル貼り
を採用することが多いです。

見た感じ塗装でもなく、タイルにしては大きさが細かいことや、上下に押さえの部材が出ているので印刷かシート貼りの線が濃厚です。
ここで別アングルを見てみましょう。

左端を拡大してみます

なにやらビスが見えますね。
また、木目の感じが転写よりも綺麗に見えているのでおそらく金属にシート貼りだと思われます。
転写だともっと立体感が無くフラットに見えるのが私の見解です。
色々なメーカーがこのような素材を出していますが、代表的なものとしてTOPPANのフォルティナが挙げられます。

1枚1枚のスパンは異なりますがおそらくこのようなアルミスパンドレルにシート貼りをしたものと想定されます。
同様にピロティ上になっている部分の天井も同様の仕様だと考えられます。遠くて確証はありませんが。笑

柱にはレンガ調のタイルを採用しており、インテリアのオーナーズラウンジ同様に横浜らしいレンガ的なデザイン要素を入れているのだなーと思います。

階段の側面及び手摺はステンレス
1階のカフェ前の手摺にもステンレスを採用しており、同様のデザインとしていそうです。
下記の写真を見ると道路に面する部分の手摺デザインと回廊の手摺デザインが同じことが分かります。
こういう統一感があるとデザインの連続性が見えて効果的ですね!

回廊の構造体も木風の部分やレンガとの相性が良い茶系の塗装をしており、アースカラーとして緑との相性の良い色合いを選定していると思います。

エントランスデザイン

エントランスでは柄が強めの花こう岩とアルミの型材でデザインしています。
最も特徴的なのは、写真左から4列目までは通常の平らな形状の石ですが、5列目より奥は曲面の石になっています。
これはお高い!

ちなみに柄の強い石を選定する時は2つ注意点があります。
1.提案時に取り寄せたサンプルと工事時に発注したものが大きく異なる可能性がある
建築の企画~設計~施工は早くても1年、長いと10年以上かかります。従って、提案時にクライアントに見せた石と実際に数年後工事する際に取り寄せた石では同じ丁場だとしても採掘の場所が異なるため柄や色目が大きく異なることもありえます。そのバラツキが自然素材の良さでもあり、注意すべき点でもあります。

2.代替品が見つからない
上記の話につながりますが、柄が強い故に似たような石が少ないです。万が一工事の段階で石が取れなくなってしまった場合、代わりのものが見つかりません。あまり重要でない部分で使う予定ならまだしも、その柄がガッツリエントランス正面に出てくる、というような”その石ありきのデザイン”の場合は注意です。すでにCGなどが世の中に出ていると、デザインの変更もなかなか難しくなりますし、引っ込みがつかなくなることもありえます。
したがって石の提案をする時はいつ工事になるのか、量はどの程度か、代替になりそうなものはあるかなどを考慮しておくことが重要です。

石の間にはアルミのステンカラーがアクセントとして入っており、数か所で支持されています。

曲面の先端は平らになっています。
石は固いといえども、鋭角になるといとも簡単に割れたり欠けたりするので、本当は鋭角にしたいけど基本的には面取りする必要があります。
石に限らずですが建材で完全に直角なものは意外と少ないです。一見直角でも実際は角が取れているケースが多く、これは人の安全性と建材の割れや欠けを防ぐためです。
人の手に触れないところで、シャープに見せたいものについては90度や鋭角で角の処理をしないことも多いです。

状況に合わせて角の処理が必要になるんですね。

館銘板はシンプルにSUS鏡面の切り文字

道路側から見るとこんな感じ
石の間の金属と自動ドアの金属の色味が揃っていて統一感があります。
また、おそらくですがインテリアの光壁も同様の曲面になっているのでは?と想像しています。
さらに、屋外の庇の天井とインテリアの天井のルーバーが同材となっており、内外がつながって見えています。
1階には商業施設やホールへの入り口、搬出入場があるのであまりエントランスに面積を取れないと想定されるので、こういった内外のデザイン要素を上手く合わせていくことで広さや奥行きを感じさせることができます。そう考えると、エントランスに引き込むような平面的な曲面の壁がより意味のあるものに感じてきますね!

エントランスの石貼りが終わるとバックヤードに繋がるレンガ調タイルの壁が出てきます。

排気が必要な部分は透かし積みにすることでレンガ調のデザインを保ちつつ、通気性という機能も満たすデザインに。

細かいですが透かし積みの両側の貼り方は馬目地(上)なのに、透かし積みの下側はフランス積み(下)になっています。
通気性を確保する時の開放性の要件でそうなったのか見た目で決めたのは分かりませんが、こういった細かいところに気を遣っているのがプロ目線からするとしびれますね。笑
心なしか排気のところの透かし積み部分のタイルが明るく見えますが、おそらく通気部分となる空洞の部分が暗いため対比的に明るく見えているだけかと思います。

引用元
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その他

外観のポイントとして特徴的な点をいくつかピックアップして紹介します。

内外をつなぐガラス

斜めになっているコーナーのダイレクトビュー住戸のガラス張り部分(7枚のガラスで構成されている部分)の両端のガラス2枚は化粧です。床から壁までのガラスなのですがバルコニーにあるという珍しいデザインになっています。

写真よりも間取りで見ると分かりやすいかと思います。リビングダイニングに面する2つのバルコニーのオレンジ囲みの部分は、バルコニーにも関わらずガラスが床から天井まで延びており、あたかもリビングダイニングのダイレクトビューガラスが延長しているように見えますよね。

引用元

え、そんな無駄なことするならそもそも室内にすればよくない?という声が聞こえてきそうですが、下記のように実際に室内化してみると赤いところが新しく追加されるのですが正直鋭角で使いにくそうですよね。こんな小さいスペースですがおそらく1平米はあると思いますし、それが14層積みあがると14平米になります。初めに記載した物件の坪単価が470万円ということを基準とすると、
14平米≒4.2坪
4.2坪×470万円/坪≒2000万円
という結果になります。また、基本的にはマンションの案件は建てられる面積ギリギリまで建てる方が収益性が良いのでギリギリで建てようとします。したがって、ここで14平米が生まれると面積の制限を超えてしまうので、代わりにどこかで14平米減らす必要があります。こんな使いにくいところを14平米増やすなら、例えばテレワークの個室を少し作った方が高値で売れるのではないか?とか、いやいや、たとえ1平米で使いにくくてもワイドなリビングダイニングが良いよね!とか正解は1つではないんです。これらを踏まえた上で使い勝手や販売価格やデザインのバランスを見ながらデザイナーや設計者は施主と調整しながら仕事を進めていくんですね。

また、バルコニーにはエアコンの室外機などの設備機器置いたりするため、十分に空気が循環するかや点検のための隙間などある程度の面積を必要とします。設備的な観点からバルコニーを小さくしないで欲しいという要望がある場合もあります。
下記を見ると室内と室外が同じガラスの構成でできていることが分かります。室内の天井高さで無目が入りますが、バルコニーでも機能的には不要ですが意匠上の連続性を見せるために無目が入っています。

ただ、バルコニーの上側のガラスは白くなっている室内と違って透過しているので、なぜ合わせなかったのかは疑問です。
考えられることとしてはいくつかありますがこのくらい
1.想定していなかった→ガラスが同じなら同じく見えるだろうと思っていた
2.採光確保を優先した→せっかくの採光をガラスを不透過にすることによって減少させたくなかった
3.同じようには見えないから割り切った→室内天井部は合わせガラス+バックボードに塗装が一般的ですが、バルコニー部分も同じように納めようとするとおそらくコスト増。シンプルに考えると合わせガラスの中間膜に白系で同色のフィルムを挟むことになりそうだけど、そもそもの素材が違うのでピッタリ色が合わないのでそれならいっそのこと止めようかという判断
4.コスト→不透過にすることでコスト増になるなら不要という判断

などなど見えないところで建築のプロジェクトにはいろいろなストーリーが隠されていますね。

ガラスで隠されたピット

3階と4階の切り替え部分にはピットと呼ばれる部分があります。
ちょうど下記の写真で言うと一番上のらせん階段と被っている部分です。

拡大したのがこちら
よく見るとガラスが透けており、奥に配管が横に並んでいるのが分かります。

設備ピットは上下階で用途が分かれるときに、配管やダクトを振り回すために設けられることが多いです。縦方向の配管やダクトは上下階ですべて通っているのが、建築計画や施工性や効率性を考慮するとベストです。が、実際はいろいろな要件があるためそううまくはいきません。そういう時に上下階の間の天井裏や床下、設備ピットなどを使って一旦配管やダクトを横に曲げて、上下の位置が違うところに移動させることを振り回すと言ったりします。

今回は上の階が住宅、下の階がオフィスや商業施設ということで設備ピットが出てきています。このピットというものはなかなかデザイン上厄介なのです。居室ではないので窓もなく、ある程度の高さが必要なので2mくらい、場合によってはそれ以上の高さのただの壁面がぐるりと建物全体に回ることになります。この処理の仕方はいろいろありますが、毎回設計者を悩ませるポイントの1つですね。
で、今回の手法としては住居ではないけれども住居部分と同じ白フレームを回したり、上階のガラス手すりと同じピッチでガラスで覆ってあげることでデザインの一体感を作っている、ということになります。

斜め部分のガラス手すり奥にあるベージュの縦樋を見て分かる通り、通常であれば下部の四角い柱に沿って付くのですが、しっかりと仕上げられた天井や特徴的ならせん階段などデザインされたピロティに縦樋を出したくないという意図がこの写真から読み取れます。
完全に写真左の方まで引張って行っているのか、もしかしたらこの写真のアングルから見えない柱の裏側から落としている可能性もあります。横に引張るのは一見手軽で良さそうに見えますが、例えば樋の場合固体(葉っぱや土など)が入ってしまうと、横引きの途中で止まってしまって詰まりの原因となることもあるためきちんとリスクも考慮したうえで選択することが重要です。

下記の写真を見ると設備ピットのガラスの方立は、ガラス手すりの下部はグレーっぽいもの居室の下部はブラウンにしてきちんと上下階の一体感を出そうというのがこういったところからも読み取れます。もっと細かいことを言うと、上下階のガラス位置も合わせようとしているのが分かります。ガラス手すり下部は白いフレームのギリギリのところまで前に出ていますが、居室下部のブラウンのサッシのガラス面は両サイドより奥にあるのが分かります。上の階を見て分かるとおり居室のガラスとガラス手すりの面は異なっていますが、それをきちんと踏まえているのが見て取れます。このように、分かりやすく目に見える色や素材だけでなく、そもそも持っている構成などにも着目するとより色々なことに気づくようになります。

番外編

全然話が変わりますが、対岸のこの建物の避難階段がきれいで好きです。
平面的な形状、建物との色の絶妙な対比、スラブと手すりの水平ラインが織りなす動きなど、とても良い感じ。


いかがでしょうか。
高級マンションを一級建築士の視点で紐解いてみました。身近な建物のマンションですが、踏み込んでみると色々な要素で構成されているということが分かると思います。そういったことを踏まえつつコンセプトを体現したデザインを成立させ、それによって集客力や資産性を上げることがとても重要となります。この内容を見た上で色々なマンションを見ると、また違った発見や面白さがあると思いますよ!ぜひ新たな視点で見てみて下さいね!

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