デザイン デザイン解剖 一級建築士 建築

【超高級マンション】西松建設デザインのグランドヒルズ元麻布を紐解く【住友不動産】

スポンサーリンク

みなさんは

グランドヒルズ元麻布

というマンションをご存知でしょうか。

総戸数32戸という規模ですが、名前に元麻布とつくことからも分かるように、高級住宅地の元麻布にある超高級マンションです。

暗闇坂下からの眺め

今回はこのマンションのデザインを紐解いていきます。

グランドヒルズ元麻布とは

グランドヒルズ元麻布とは
住友不動産が手掛けた、元麻布に位置する超高級マンションです。

最寄り駅は麻布十番ですが、元麻布は麻布十番と六本木の間に位置するため六本木へのアクセス性も良いです。

立地は東京都港区元麻布三丁目210番9他です。
元麻布いえば内井昭蔵の元麻布ヒルズが有名ですが、ここは元麻布と言えども、高台の途中にありますので、麻布十番へのアクセス性は高く日常の買い物や食事は便利です。
写真中央下の屋上がロの字で緑になっているのが元麻布ヒルズです。

麻布十番を含めて港区には様々な名称がついた坂があり、グランドヒルズ元麻布は

”暗闇坂”という坂道の中腹にあります。
名前がすごくミステリアスですが、名前の由来はこちらです。

名前の由来は、昼間でも暗いほど鬱蒼と樹木が茂り、狭い坂道に覆いかぶさっていたからといわれる。暗く見通しの悪い急な坂道のためか、妖怪、幽霊が出没するなどといった伝説が生み出された。実際に追い剥ぎなどが現われる物騒なところであった。同様な命名として幽霊坂という坂も多い。

wikipediaより引用

その他、このあたりにはけやき坂や、日向坂、狸穴坂、仙台坂などなど多くの坂があります。
坂があるということが低地と高地があるということですので、昔は住む人の身分もそこで住み分けられていたという経緯があります。仙台坂は仙台藩伊達家の下屋敷があったので、東京なのに”仙台坂”という名前が付けられています。余談ですが仙台坂から見た東京タワーの景色はお勧めです。
坂が好きな人には「都心に住む」という雑誌にあった”坂の記憶”というコラムをお勧めします。
毎回、東京のある坂道を題材に架空の短編小説が繰り広げられます。

こちらから見られるらしいので興味ある方はぜひ↓

坂の記憶

仙台坂からの風景

高地は身分の高い人、低地は庶民が暮らしていた、という歴史は今の街の構造にも表れています。麻布十番はその立地から有名な飲食店や有名人が集まる場所ですが、その一方で昔からある商店街はどことなく下町情緒あふれる雰囲気があるのはそういった歴史的な骨格があるからでしょう。
また、土地利用も高台は大きく、低地は小さいというのは一般的ですので、〇〇ヒルズという名前の高級マンションが多いのは、大きな土地を持つ地主がいる高台で開発が行われることを意味しています。

だいぶ話が脱線しましたが、そういった歴史を頭に入れて街を見るとまた違った街や建物の見え方が出てくるので面白いですね。

グランドヒルズ元麻布は
施主:住友不動産
設計・施工:西松建設

という組み合わせです。
グランドヒルズは住友不動産の中でも最高級のマンションブランドになります。元麻布という立地上当然と言えば当然でしょう。

住友不動産は他のデベロッパーと比べてデザイナーを起用することは少ないです。日本最大の設計事務所である日建設計との付き合いも多いのも理由の一つかと思います。あとはシビアな金銭感覚でしょうか。住友不動産は”下げないスミフ”と呼ばれていて、マンションを作っても一気に売り抜くのではなく、例え売れなくても値下げせず少しずつ売っていく、というスタイルでその他のデベロッパーとは少し戦略が違います。

ただ、デザイナーを起用していないとは言っても採用している設計会社はどこも大手の企業ですのでデザインもスタイリッシュでモダンでファンは多いですね。デベロッパーでは珍しくマンションでカーテンウォールを採用していたり。

販売価格ですが、現状売りに出ているものはなんと156㎡で7億6千万円
坪単価1千6百万円!!
誰が買うんでしょうね。。。

公式HPより
公式HPより

最上階の5階に位置しルーフバルコニー付きです。こういうマンションでは当然ですが、室外機や樋などはルーバー等で目隠しされているのがこの図面からも分かります。

デザインコンセプト

まずはコンセプトを見ていきましょう。

コンセプトは“世界に誇る、日本の美意識です。

うーん

正直、なんとも言えないコンセプトです。
どんなデザインにでも昇華できそうな、
広義的に捉えられる曖昧なコンセプト
更に見て行くとこんな文言が↓

凛とした静謐、仄かな光と影が織りなす明暗の美、
翳りをまとうことで際立つ奥ゆかしい色彩。
古来、日本人は、陰影の中に真実の美を見出してきた。

今、ここに誕生する元麻布三丁目の邸宅。
それは綺羅の都心に残された美しい陰影を享受するためにある。
四季の緑陰と深い閑けさを湛え、
歴史の面影と穏やかな邸宅地の趣を譲り継ぐ暗闇坂の丘。

邸宅は掘り深く端正な意匠によって風景に陰影を生み、
迎賓の空気の中に高い結界性を有する門構え、
私的な領域までダイレクトに至るカーアプローチによって、
住まう方の営みを侵されがたい領域へと昇華する。
住友不動産の最高傑作を目指し誕生する「グランドヒルズ元麻布」。

世界に誇る、日本の美意識がここにある。

公式HPより

どうでしょう。ここまで掘り下げて説明されれば頷ける点も多いです。

”暗闇坂に面する”という立地特性を基に、陰翳というキーワードを抽出し、谷崎潤一郎著の名作「陰翳礼賛(いんえいらいさん)」で言及している日本の美意識というキーワードに展開しています。後ほど説明しますが、外観では割り肌の石張りやコンクリート打ち放し、マリオンを多用することでコンセプトである陰翳というのは実現できているかと思います。

(ただ、石張り+ガラス+擁壁という構成はグランドヒルズ目黒一丁目にも似ている。。。)

では、詳しく建物のデザインにフォーカスし
読み取っていきましょう。

デザインについて

デザインの大きな特徴は3つあります。

  • 陰翳のあるファサード
  • 素材のハイブリッド
  • 擁壁デザイン

ではそれぞれ見ていきましょう。

陰翳のあるファサード

コンセプトにあるように陰翳がこの建物のデザインの一押しポイントです。

この建物は主に石、ガラス、コンクリート打ち放しで構成されています。

通常の建物ですと外壁はタイル張りや塗装が一般的です。
石張りはコストがかかるので、エントランス周りのみに使うことが多いです。
また、近年では石調の大判タイルも数多く作られておりその表情は徐々に本物の石に近づいてきています。
そんな中で石張りを外壁全体に使っているのはやはりこの高級マンションならではでしょう。さらにただの石張りではなく”陰翳”を出すにふさわしい、割肌と呼ばれる荒々しい石の表情の仕上げを採用しています。割肌は石の厚みがより必要になるので、その分コストもUPしますが自然素材の良さが生み出せるので高級感の演出には良いですね。

また、
・割肌の石の中にコンクリート打ち放しのボーダーラインが噛みこむ
・軒天に化粧目地が入れてある
・バルコニーのガラス手すりと居室のガラス面が前後している
・庇のようなスラブがある
・小柱のような石張りのマリオンがある

などの手法を用いることで、立面的で非常に豊かな表情を作り上げています。この立体的が陰翳のポイントですね。陰翳というのは言うなれば奥行きの違いから生まれる現象ですので、様々な奥行きを感じさせるのは陰翳を表現するうえで必要不可欠です。奥という言葉を聞くと槇文彦さんの「見えがくれする都市」と繋がって行きそうですが、この辺でやめておきます。
ガラス面やマリオン、庇による大まかな構成の陰翳と石とコンクリート打ち放しの段差や割肌の表情など細やかな陰影も作られているデザインになっています。

素材のハイブリッド

2つ目は素材のハイブリッドです。
この写真を見て分かるように、用いている素材のバランス良いですね。
素材感・高級感のあり落ち着いた邸宅感を出す石張りをベースに、端正な表情のコンクリートと反射率が高いガラスの表情によって、モダンな印象も生み出しています。

石張りは見て分かるように全面的に割肌を採用していますが、側面はフラットになっています。
これはnabeの予想ですが側面は石と同色のタイルなのでは?と推測しています。(間違えてたらすみません)
一般的な石張りの納まり寸法は乾式の場合下地から100mmで、両側石張りならそれが倍なので200mm、下地はおそらくRCなのでミニマム150mm程度、と考えると上の写真中央の石の壁の幅はミニマム350mmになるのですが、見た感じ幅が狭い気もします。ただ、写真を拡大してみても同じ石にも見えるし。。。
誰か知っている人がいたら教えてください。

コンクリート打ち放しのスラブは基本的にガラス手すりピッチと合わせて鼻先に化粧目地を入れており割付があっているので綺麗ですが、一方で石張りとはモジュールがあっていないのが少し気になります。
石張り⇔ガラス・コンクリート打ち放し
という対比を感じられるので、あえて別物としているのか?とも読み取れますが、多分施工上・コスト上の理由でしょう。

ガラスは居室部分についてはLow-Eガラスを採用しており、ガラス手すりも割と反射率の高いものを使っているので風景を映し出していて綺麗です。また、ガラス手すりは方立(縦の支柱)の見付けが小さいタイプの手すりを使っているかもしくは上下の2辺支持としてるのでガラス面がフラットですっきり見えるのでより洗練された印象を感じます。

ちなみに建物北側のファサードは同じ石張りですがこちらは割肌ではありません。

google earthより

擁壁デザイン

麻布十番からこの建物に向かい暗闇坂を上がるとまず目につくのは巨大で結界性を作り出す擁壁です。すごい高さですね。一番高いところでは5~6mくらいありそうです。ちなみにこの建物の前面道路である暗闇坂は一方通行でとても狭いんですよね。
にも関わらず割と交通量が多いので、歩くときは注意してください。

google earthより

メインエントランス
石の重厚的な表情の中にぽっかりと空いた別世界への入り口は結界性を作り出しています。
坂道に面しているためバリアフリー上スロープと階段を併設しないといけないのが少し残念ですね。また、天井の白い塗装がメインエントランスとしての設えとしては少し寂しい気がします。

一般的な考えだと右側の壁が少し暗い気がしますが、この明るさと暗さの対比を陰翳の表現として捉えるならば理解できそうかな、と思います。奥の壁は鏡面になっており前面の風景を映し出しているため、奥行き感を作り出しています。

公式HPより

石のディテールですが、これは何仕上げというんでしょうか?
石垣は荒々しい表情の野面積み、と思いきや割肌とも少し違う表情(ノミ切り?)で、かつ、なんとなく整えられた形をしているので、これもまた建物同様に自然素材のもつ陰影や奥ゆかさを持たせながら積み方を少し整然とさせることであまり見ることのないパターンの石張りを実現しています。

ランダムなようで少し規則性がありそうな積み方
出隅の納まり 小口の処理をしているかが大きなポイントです
館銘板は石にはめ込まれたSUSの中に同じくSUSの切り文字

坂の上部から見るとこういう感じ。
擁壁が数段に分かれていることで、長大な石垣の圧迫感を軽減するとともに、街行く人々の目線に豊かな風景を提供しています。夜は照明によって植栽が照らされて綺麗です。

天端は本磨きの笠石納まり

その他

その他細々としたデザインを見て行きます。

公式HPより

エントランスラウンジ
元麻布の邸宅にふさわしい少しクラシカルな印象です

公式HPより
google earth この扉が解錠されて車で建物内へ

車寄せはセキュリティを解除してそのまま建物内に入ることができる仕様!一般的には外気のところが多いので、こういった設えは珍しいですね。車寄せにも力を入れていると高級感が増します。

google earth

乳白ガラスは駐輪場の目隠しとして機能しています。また、住宅のセキュリティ向上のため柵の乗り越え防止のためトゲトゲが置いてあるのが分かります。

google earth

謎の隙間は避難ハッチからの下り場のための空地
どうしても1階周りはこういったところが出てしまうのでうまく処理する工夫が必要ですね。


いかがでしょうか。

超高級タワーマンションを一級建築士の視点で紐解いてみました。

身近な建物のマンションですが、踏み込んでみると色々な要素で構成されているということが分かると思います。

そういったことを踏まえつつコンセプトを体現したデザインを成立させ、
それによって集客力や資産性を上げることがとても重要となります。

この内容を見た上で色々なマンションを見ると、また違った発見や面白さがあると思いますよ!

ぜひ新たな視点で見てみて下さいね!

公式HPより

-デザイン, デザイン解剖, 一級建築士, 建築

© 2025 Designabe Powered by AFFINGER5