はじめに
建築界において、NFT(非代替トークン)を活用した新たな可能性が広がっています。一般的に、建築関連のNFTは、メタバース上での不動産取引や3D建築データの活用による建築模型の保存などがよく知られていますが、NFTの活用にはさらに多くのメリットがあります。本記事では、自身が作成した3DデータのNFT化による新たな付加価値や、スタディ模型のNFT化によるバリエーション展開、そしてNFTを通じたコミュニティ形成の可能性について探っていきます。
検討プロセスに価値を
建築の創作プロセスにおいて、図面や模型、3Dデータなどのアウトプットは多岐にわたりますが、その中には水面下に潜んでいて表に出てこないアイディアや形も存在します。これらのアウトプットは後のプロジェクトに繋がる可能性がありますが、お蔵入りになることや破棄されることも珍しくありません。このような意味で、寺田倉庫などが行う建築模型の展示は、多くの建築家が作り上げた模型に注目し、そのプロセスで生まれたアウトプットにフォーカスする取り組みと言えるでしょう。建築物の現地化は、一つのアウトプットとしての建築物に加えて、そのプロセスで生まれたデジタルデータにも価値を付与する仕組みを生み出す可能性を秘めています。
建築模型は一般の人にもわかりやすく、建築模型カフェや寺田倉庫のような施設も存在します。しかし、デジタルデータになると特別なソフトウェアを使用しなければ開けない、特定の人しか扱えないといった問題があります。ここで、NFTを活用することで、これまで無価値とされていたデジタルデータに新たな価値を与えることができます。建築家はスケッチアップやラインなどの特別な3Dソフトウェアを使用しますが、一般の人が扱うためにはアプリやウェブブラウザを通じてデータに触れる必要があります。その際、WebGLの技術を活用することで、特別なソフトウェアがなくても直感的に3Dデータを操作することができます。これにより、一般の人でも建築のデジタルデータを活用することが可能となり、新たな付加価値が生まれるのです。
コミュニティ形成のためのNFT活用
さらに、建築のNFTにはコミュニティ形成やグループ作りの可能性もあります。NFTアートの場合、作品を制作し、その数を制限することで一種のエクスクルーシブな状況が生まれます。これにより、そのコミュニティに属することで特別感や所属意識が生まれ、コミュニティの力が強まるのです。建築の文脈でも、同様のアプローチが可能です。例えば、一つの建築物を再現した3DデータをNFT化し、その部材を分解して個別のNFTとして販売することも考えられます。特定の部材がレアになることで、その価値が高まり取引されるかもしれません。ただし、これらの制御は購入者や建築家に委ねられるため、コントロールは難しい側面もありますが、新たなコミュニティの形成や思想の共有を促す役割を果たすことができます。
まとめ
まとめると、建築のNFTはデジタルデータに価値を与えるための手段であると同時に、コミュニティやグループ形成のツールとしての役割も担っています。NFTアートの成功例を見ると、データのやり取りに関する話題がよく取り上げられますが、実際にはそれを取り巻くコミュニティや思想共有のためのツールとしての重要性も大きいのです。建築界でも、NFTを通じたコミュニティの形成やアーティストの思想共有、ムーブメントの起点となる可能性があります。建築とNFTの関係を考える際には、デジタルデータの付加価値だけでなく、コミュニティ形成の側面にも注目することが重要です。